Activity Report
第3回 再生可能エネルギーオンライン勉強会 ~ソーラーシェアリング実践第一人者に何でも聞けるチャンス!~
「大地を守る・くらしからエネルギーを考える会」と「食の未来をつくる生産者の会」の共催による、ORD生産者向け再生可能エネルギーについてのオンライン勉強会。
好評につき第3弾として、農業現場における「脱炭素」の切り札として、今もっとも注目されている「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」をテーマに開催しました。
講師は「ソーラーシェアリング」の若き第一人者!
講師の馬上丈司(まがみたけし)さんは、国内外で自然エネルギーによる地域振興事業に携わる専門家。
1983年生まれで38歳という若さで、農林水産省のソーラーシェアリングについての有識者会議の委員なども務める、第一人者です。
大学で再生可能エネルギーについて研究していたところ、研究に飽き足らず大学発ベンチャーとして「千葉エコ・エネルギー株式会社」を設立し再エネのコンサル事業を開始。
その後、「ソーラーシェアリング」が持つ可能性に注目し、その普及に全国を飛び回る傍らで、自身の会社にて、20代の社員達と共に新規就農として「ソーラーシェアリング」の実践を始めてしまった、エネルギッシュな馬上さんのお話を楽しみにお聞きしました。
今なぜ「ソーラーシェアリング」か
「脱炭素」の世界的な潮流の中で、
日本では、2030年までに発電量の36%~38%(現在の約2倍)を再生可能エネルギーにする計画があり、比較的短期間で導入できる太陽光発電を増やす必要があります。
しかし、太陽光発電については、山林の乱開発などが問題になっています。
解決策のひとつとして、農地に支柱を立てて太陽光発電を行い、設備の下では従来どおりの農業を行うことで、農業と再生可能エネルギー生産を両立させる「ソーラーシェアリング」
が注目されています。
※画像の上の部分は、山林を切り崩して設置した太陽光パネル。下の部分は、耕作中の農地を有効活用しているソーラーシェアリング。
ソーラーシェアリングの概要
農業収入だけでなく発電による収入も得られ、農業経営の安定化と地域への貢献も期待されます。
日本で発祥し、農業と共存できる再生可能エネルギーのしくみとして世界からも注目されています。
太陽光パネルの下でどんな作物が育つのか
日本で近年普及している「藤棚式」(画像参照:細長い太陽光パネルを何枚も均等に配置することで、光が均一に当たる)では、ほとんどの作物が栽培できます。
馬上さんの千葉エコ・エネルギーでも年間10品目程度栽培しています。
ただし、平均して30-40%程度は光が遮られる(遮光率30-40%)ため、やや徒長気味になったり収穫時期が少し遅れ気味になる可能性があり、その点を考慮した営農計画が必要になります。
また支柱とその周囲には植えられないため、その部分の収穫量が減ることになります。
水田でも導入が広がる
支柱の幅や高さを工夫して、トラクターやコンバイなどが問題無く動けるようにすることで、水田にも導入が広がっています。
導入例は全国で200例近くあり、一町歩(1ha)分まるごと設置している例もあります。
ソーラーシェアリング導入の設備投資(馬上さん試算)
1反分(10a)、2反分(20a)くらいの小さめの面積の場合、設備コストは平米当り
約1万円の計算になる、と馬上さん。設置面積が1500平米(15a)とすると約1500万円。
ソーラーシェアリングの維持管理費と収支(馬上さん試算)
設備メンテナンスのコストは、年平均約8万円。
一番気になる収支については、農業者自らが導入する場合で、南関東程度の日射量であれば年間25-35万円程度の営業利益になる、と馬上さん。(前述の販売価格を12円/kWhとした場合)
発電した電気を売電するか、自家消費するか?
①国の買取り制度(FIT制度)を利用した売電の場合:
買取り価格は年々下がっており現在11円/kWh。20年間この価格で買い取ってくれる。
しかし、インフレや電力の高騰(2022年5月で市場価格が15円~30円)に対応できません。
②自家消費を行う場合:
電力料金が高騰した場合は、高い電気を購入しなくて済むと、いうメリットがあります。
③農業による自家消費は、電化された施設園芸でないと発電分を使い切れませんが、
今後(馬上さんの読みでは3-5年以内)に、電気自動車や電動農機が普及し始めると
農業での自家消費を増やせる可能性あり。農業にとって無くてはならないトラクターの電化が望まれるところです。
④電気代が高騰すると、変動する化石燃料の電力でなく再エネの電力を、PPAのしくみを
使って購入したいという企業が増えてくるかもしれない、と馬上さん。
化石燃料依存という日本農業の問題→ソーラーシェアリングによるエネルギー転換(脱炭素化)を!
日本の農業に使われるエネルギーの「99%」が、実は化石燃料由来。
このうち電力は25%。残りの75%は燃料等です。
例えば、日本全体で使用する重油の17%は農業で使用しています。
これでは農業が持続可能とはいえず、また、石油の輸入が止まったら農業が行えなくなることを政府でも問題にし始めています。
この日本農業の問題をソーラーシェアリングで解決できないか、と馬上さんは提案します。
燃料等として使用している化石燃料を、いったん電気に置き換える、つまり電化する。
それをソーラーシェアリングなどの再生可能エネルギーで賄っていく。
また温室効果ガス(CO2など)の排出量に対して農林水産部門が占める割合は、世界では
23%にも相当します。
日本全体の排出量に対しては、農林水産部門からの割合は4%になりますが、この削減も避けて通れない問題です。(農水省「みどりの食料システム戦略」より)
農業の電化→再エネ化①
石油の使用をできるだけ減らすため、ソーラーシェアリングで生み出した電気を小型EVや電動草刈機、EV車などに導入しています。
※農業用機械への導入例。右側の写真は遠隔操作の電動草刈ロボット。
農業の電化→再エネ化②
超小型EVコムスの運用で、畑の見回りなど農場周辺の移動をソーラーシェアリングの電気で賄うことにより、低炭素化を計ります。
地域内で移動する際の車の燃料を再エネ化
農業で使う燃料だけでなく、ソーラーシェアリングの発電をEV自動車に充電することにより、地域で使う燃料の低炭素化を計ります。2019年の台風で8日間停電したことを教訓に、災害時にソーラーシェアリングの電気を活用できるようにしました。
ソーラーシェアリングについてのまとめ
(左記参照)
「地域で次世代が豊かになるために」
再生可能エネルギーの中で、環境負荷が少なく、持続可能性のあるソーラーシェアリングの価値は今後も高まってくると予想される、と馬上さん。
100年前に「電気事業法」が制定された時には、地域ごとに住民がお金を出し合って発電所を作っていました。
導入コストがかかるソーラーシェアリングは、個人ですべてをまかなうのは難しい。広めるためには、農山漁村において、電気を「1次産業」として再び地域で協力して再生可能エネルギーによる電気事業を行えないか。「安くて儲かるから」でなく、「次の世代が豊かになるため」の取組みを!
と、馬上さん。
~勉強会を終えて~
・馬上さんのお話は、世界情勢から見た農業における脱化石燃料の必要性などソーラーシェアリングの価値など全体像と、実践に基づいた具体的なお話の両方が聞けて、わかりやすかったと好評でした。
・今回の勉強会をきっかけに、馬上さんのスマート農業による再エネ化の最新事例として、また若者による農業への新規参入への事例として、今年の秋に私たち大エネは圃場見学を行います。
関心ある生産者にもぜひ同行で見学いただけるよう、「生産者の会」と協力して呼びかける予定です。